2009年08月13日

レストラン・アルピーノ

1962/9/4、ビートルズはEMIスタジオでの2回目のレコーディングを行ないました。

そして、レコーディングの合間に、アルピーノというレストランで食事をしています。
リハーサルとレコーディング・セッションの間の空き時間(午後5時半〜7時の間)に、ジョージ・マーティンはビートルズとニール・アスピナルを夕食に連れ出し、ピーター・セラーズやスパイク・ミリガンのレコーディングをしたときの話をして彼らを楽しませた。「マリルボーン・ハイ・ストリートのアルピーノという小さなイタリア料理店へ連れて行ったんだ。みんなスパゲティを食べて、ひとり当たりの値段が3シリング9ペンスほどだった。別に高級な店でも何でもなかったが、彼らは感激していたよ。こういうのをいい暮らしというんだ!ってね」

なかなか初々しいエピソードです。現在、このお店はゲッティと名前が変わっています。



ちなみに、この日9/4のレコーディングは、デビューシングルを録音するために行なわれました。
6月6日の初めてのセッションから90日後、ビートルズは再びEMIスタジオを訪れ、デビュー・シングル用のレコーディングに再度挑戦した 午後2時から5時までは第3スタジオで、ロン・リチャーズのもとで精力的なリハーサルを行った。6曲練習し、そのうちの2曲が夜のセッションでレコーディングされた。スタジオは午後7時から10時まで予約していたが、結果的には11時15分までかかった。そのうちの1曲はオリジナル曲にこれといったものがないと感じたジョージ・マーティンが前もって選んでいたミッチー・マレー(本名ライオネル・ミッチェル・スティッチャー)の"How Do You Do It"だった。マーティンはこの曲をビートルズのデビュー・シングルに強く推した。

"How Do You Do It"のレコーディングについては、最近になって興味深い事実が明らかになった。もっとも注目すべき点は、ビートルズがこの曲のアレンジをかなり変えていたことだ。ジョージ・マーティンから送られてきたオリジナル・でも収録のアセテート盤を聴いて、自分たちのスタイルにあうように時間をかけて編集したに違いない。しかし、ジョンとポールはあくまでも自分たちの曲をシングルとして発売することを望んでいた。したがって、ビートルズは一応"How Do You Do It"をレコーディングする準備はしていたが、それは嫌々ながらの話だったし、やる気はなかった。その気持ちをくみ、現時点でのかんばしくない仕上がりからいずれ大きな飛躍があるだろうと見込んだジョージ・マーティンは、レノン=マッカートニーの行く末をもう少し見守ることとした。

その後、ビートルズのレコーディングが採用されなくなると、この曲はジェリー・アンド・ペースメーカーズにまわされた。ジェリーはマレーのオリジナル・バージョンではなく、ビートルズのアレンジをコピーしている。

ジェリー・アンド・ペースメーカーズはこの曲でチャートのナンバーワンを獲得している。

※一部省略、順序入れ替えてます


"How Do You Do It"は、"Ultra Rare Trax 1"で聴くことが可能です。また、"Anthology 1"にも収録されていますが、こちらのバージョンは"Sessions"製作の際にミックスされたもので、"Ultra Rare Trax 1"収録のオリジナルバージョンと比べて、曲終わりの歌詞の一部が少しだけ差し替えられています。



が、ビートルズはあくまでオリジナル曲にこだわり、「Love Me Do」も録音します。

また、この日は、リボルバーからレギュラーエンジニアとなるジェフ・エマリック(当時まだ15歳!)が、EMIスタジオに勤めだしてから2日目となる日で、先輩エンジニアであるリチャード・ランガムに付いて、夜のセッションを目撃しています。
7時少し前、マイクが拾ったしゃべり声を聞いて、ぼくはなにごとがはじまったのかと、コントロールルームの窓側に向かった。はじめて目の当たりにしたビートルズの姿は、さほど記憶に残るようなものではなかった。下のスタジオでは7人の人間が動きまわっていたが、いっぷう変わった髪形のおかげで、4人のメンバーは簡単に見分けがついた。ただしクリスが絶賛していた革のジャケットではなく、きちんとプレスされたワイシャツにネクタイという出で立ちだった。

「How Do You Do It テイク1」と彼がいうと、一瞬の間を置いて、メンバーのひとりが震え声でカウントし、バンドは演奏を開始した。クリスやほかのスタッフから、さんざん前あおりを聞かされていたせいか、正直いって彼らの演奏には、少しがっかりさせられた。リズム・ギターも兼ねるリード・シンガーは、鼻にかかったユニークな歌声の持ち主で、音を外さずにうたったものの、さほど熱がこもっていなかったし、リード・ギタリストはなんだかぶきっちょうそうだった。この演奏でいちばん印象深かったのは、おそらく、パワフルでメロディックなベース・プレイだろう。窓からのぞき見ると、ベーシストは同時にハーモニーもつけていた。

ほんの2、3テイク録っただけで ー ジョージ・マーティンはそのあいだ、手持ちのトークバック・マイクで指示を出していた ー 全員が満足したらしく、バンドはプレイバックを聞くために、コントロールルームに上がってきた。

プレイバックを聞いたジョージ・マーティンがOKを出したとき、ぼくはビートルズの4人が何度も座り直しているのに気が付いた。なにやら納得のいかないことがあるらしい。口火を切ったのはジョンだった。

「なあ、ジョージ」と彼は自分たちのプロデューサーに、無遠慮に話しかけた。「はっきりいってオレたち、この曲はクズだと思うんだ」ジョージの驚いた顔を見て、彼はいくぶん表現をやわらげた。「つまり、たしかにいい曲かもしれないけど、オレたちがやりたい路線とはちがってるってことさ」

「じゃあきみたちはいったいどういう曲をやりたいんだ?」困り顔のプロデューサーが訊いた。

眼鏡を外し、目を細めてジョージを見つめたジョンは、単刀直入にこういった。「オレたちはどっかのだれかが書いたヤワな曲じゃなくて、オレたち自身の曲をやりたいんだ」ジョージ・マーティンはかすかにおもしろいという顔をした。

「じゃいうがね、ジョン。きみたちがこれに負けないくらいいい曲を書いてきたら、喜んでレコーディングしようじゃないか」ジョンは彼をにらみつけ、しばらく、不穏な雰囲気が漂った。

するとポールが礼儀正しいが断固とした口調で、「今のぼくらは、ちょっとちがった方向性を目指したいと思っているんです。それにぼくらの曲は、決してその曲に負けていないと思います。もしよかったら、ちょっとやってみたいんですが」

ジョージ・マーティンはノーマンと顔を見合わせた。権威をふりかざすべきなのか、それとも要求を呑むべきなのか、迷っている様子だった。しばし各メンバーの顔を見つめ、彼らの本気度を推しはかろうとしていたが、ついに沈黙を破り、穏やかな声でいった。「わかった。じゃあその曲を聞かせてくれ」

5人がゆっくり階段を下りていくと、ノーマンはぼくとリチャードを振り向いてかぶりを振った。「ずいぶん生意気な連中じゃないか、ええ?でもたぶん、ああでなきゃここまで来れなかったのかもしれないな」

「見なよ、リチャード」驚いたぼくは、思わずこう口走っていた。「ちがうやつがうたってる!」

ノーマン・スミスがふくみ笑いをした。「そこがこのバンドの強みのひとつさ。オーディションのとき、このバンドには強力なリード・シンガーがひとりじゃなくふたりいるのがわかったんだ。ギタリストもうたえるんだぞ。まぁ、あのふたりほどうまくはないが」

僕はポールの声の響きがすごく気に入った。丸味のトーンは、ジョンのもっとどぎつい音色とは好対照を成していた。それ以上に印象的だったのが、ふたりの声のブレンドで、ハーモニカを吹かなくてもいいパートでジョンが低音のハーモニーをつけると、クリス・ニールのいった通り、エヴァリー・ブラザーズそっくりになったーただし、音楽性はずっとアグレッシブだったけれど。

少ししてジョージ・マーティンがコントロールルームに戻り、ノーマンに意見を求めた。「悪くないよ、ジョージ。悪くない」彼はいった。「さっきの曲みたいにすぐ火がつくってわけにはいかないかもしれないが、うん、たしかに聞かせるものがある」

※一部省略してます
ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』 P71〜
Geoff Emerick & Howard Massey 著

ということで、めでたくオリジナル曲「Love Me Do」が、彼らのデビューシングルとなったわけです。すばらしいぃ。

「"How Do Yo Do It"で行こうと決めていたんだが」とジョージ・マーティン。「最終的には私も"Love Me Do"を採ったよ。あれはとてもいいレコードだった」

とは言うものの、実はジョージ・マーティンはこの日のドラムも気に入らず、9/11にはスタジオ・ミュージシャンのアンディ・ホワイトを起用して再レコーディングを行ないます。

が、最終的には何故か両方のバージョンが採用され、シングルはリンゴ、アルバムはアンディ・ホワイトのバージョンが収録されることとなりました。(現在リンゴ・バージョンはパスト・マスターズで聴く事ができます。)

また、この日のレコーディングには、写真家デゾ・ホフマンも立ち会ったため、プロ・ビートルズとしてはごくごく初期の貴重な写真が多くの残されています。撮影場所は第3スタジオ。ジョージの左目周りのあざは、キャバーンクラブで殴られた痕です。痛々しい・・・。



この日の写真では無いですがプロダクションチームの面々です。左からリチャード・ランガム、ノーマン・スミス、ジョージ・マーティン。



話があちこち飛びましたが、アルピーノの場所はこちらです。


より大きな地図で London を表示

(訪れたのは7/1)
ラベル:旅行 Beatles
posted by ハル at 00:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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